アカルボースとは?
アカルボース(Acarbose)は、α-グルコシダーゼ阻害薬に分類される糖尿病治療薬で、主に食後の血糖値上昇を抑える目的で使用されます。炭水化物の消化・吸収を遅らせることで、血糖値の急上昇を防ぎ、糖尿病患者の血糖コントロールを助けます。また、近年ではダイエット目的での使用も注目されており、肥満治療の一環として処方されるケースも増えています。
アカルボースの効果
- 食後の血糖値上昇を抑制
- インスリンの負担を軽減し、糖尿病の進行を抑制
- 糖質の消化吸収を遅らせ、肥満予防に効果的
- 血糖スパイクを防ぎ、糖尿病合併症のリスクを低減
アカルボースは、小腸に存在するα-グルコシダーゼという酵素の働きを阻害し、食事で摂取した炭水化物の分解を遅らせます。その結果、ブドウ糖への変換が遅くなり、血糖値の急激な上昇を防ぐことができます。
効果発現までの時間と持続時間
- 服用後30分〜1時間で作用を発揮し、食後の血糖値上昇を抑制します。
- 持続時間は3〜6時間程度で、毎食時に服用することで1日を通して血糖値を安定させることができます。
アカルボースの用法・用量
- 通常、1回50mg〜100mgを食事直前に服用します。
- 1日3回、毎食直前に服用することで最大の効果を発揮します。
- 水なしで噛み砕いて服用することで、消化管内でより効果的に作用します。
※食後に服用すると効果が十分に得られないため、必ず食事の直前に服用してください。
臨床成績
単独療法(国内プラセボ対照二重盲検比較試験)
(1) インスリン非依存型糖尿病(NIDDM)患者を対象に、アカルボース1回100mgまたはプラセボを1日3回、8週間投与した試験で、有用性が認められました。
投与群 | 症例数 | 有用以上の割合 |
---|---|---|
アカルボース 100mg | 85 | 38.8%(33/85) |
プラセボ | 87 | 13.8%(12/87) |
統計学的有意差:p<0.001
(2) NIDDM患者を対象に、アカルボース1回100mgまたはプラセボを1日3回、24~28週間投与した試験で、有用性が確認されました。
投与群 | 症例数 | 有用以上の割合 |
---|---|---|
アカルボース 100mg | 17 | 58.8%(10/17) |
プラセボ | 15 | 20.0%(3/15) |
統計学的有意差:p<0.05
併用療法(国内一般臨床試験)
(1) SU剤との併用試験(短期試験)
NIDDM患者を対象に、アカルボース1回50mg~100mgを1日3回、12週間投与した結果、食後血糖の改善が認められました。
試験 | 投与例数 | 中等度改善以上の割合 | 副作用発現率 | 主な副作用 |
---|---|---|---|---|
試験① | 55 | 32.7%(18/55) | 20.0%(14/70) | 放屁の増加(11件)、腹部膨満感(9件)、下痢(1件) |
試験② | 103 | 38.8%(40/103) | 20.5%(25/122) | 放屁の増加(19件)、腹部膨満感(14件)、軟便(2件) |
(2) SU剤との併用試験(長期投与試験)
NIDDM患者を対象に、アカルボース1回50mg~100mgを1日3回、28週間以上投与した結果、治療期終了時において、食後血糖の安定したコントロールが確認されました。
投与群 | 症例数 | 中等度改善以上の割合 | 副作用発現率 | 主な副作用 |
---|---|---|---|---|
アカルボース(長期) | 80 | 37.5%(30/80) | 18.6%(16/86) | 放屁の増加(13件)、腹部膨満感(6件) |
(3) インスリン製剤との併用試験(短期試験)
インスリン製剤投与中のNIDDM患者およびインスリン依存型糖尿病(IDDM)患者を対象に、アカルボース1回50mg~100mgを1日3回、12週間投与した試験で、有用性が確認されました。
投与群 | 症例数 | 中等度改善以上の割合 | 副作用発現率 | 主な副作用 |
---|---|---|---|---|
アカルボース(短期) | 81 | 48.1%(39/81) | 18.4%(21/114) | 放屁の増加(12件)、腹部膨満感(11件) |
(4) インスリン製剤との併用試験(長期投与試験)
インスリン製剤投与中のNIDDM患者およびIDDM患者を対象に、アカルボース1回50mg~100mgを1日3回、28週間以上投与した試験で、治療期終了時において安定した血糖コントロールが確認されました。
投与群 | 症例数 | 中等度改善以上の割合 | 副作用発現率 | 主な副作用 |
---|---|---|---|---|
アカルボース(長期) | 37 | 51.4%(19/37) | 21.2%(11/52) | 放屁の増加(5件)、腹部膨満感(5件) |
使用時の注意点
- 食後に服用しても効果が十分に得られません。食事のタイミングを守ることが重要です。
- アカルボース単独では低血糖を起こしにくいですが、インスリン製剤やスルホニル尿素薬(SU薬)と併用する場合、低血糖のリスクが高まるため注意が必要です。
- 消化管での糖質の分解が遅れるため、おならが増える、腹部膨満感、軟便が起こることがあります。これらの副作用は、食事内容を工夫することで軽減できます。
- まれに肝機能障害が報告されているため、定期的な血液検査が推奨されます。
副作用
アカルボースは比較的安全性の高い薬ですが、以下の副作用が報告されています。
- 腹部膨満感・放屁(おならが増える)
- 軟便・下痢
- 肝機能異常(まれ)
これらの副作用は、過剰な糖質摂取によって悪化することがあるため、食事管理も重要です。
他の糖尿病・ダイエット薬との比較
薬剤名 | 主な効果 | 低血糖リスク | 主な副作用 | 投与頻度 |
---|---|---|---|---|
アカルボース | 食後血糖値の上昇抑制 | 低い | 腹部膨満感・放屁 | 1日3回(食直前) |
メトホルミン | インスリン抵抗性改善 | 低い | 胃腸障害・下痢 | 1日1〜2回 |
SGLT2阻害薬(ジャディアンスなど) | 尿からの糖排出促進 | 低い | 頻尿・脱水リスク | 1日1回 |
GLP-1受容体作動薬(オゼンピックなど) | 食欲抑制・血糖コントロール | 低い | 吐き気・便秘 | 週1回注射 |
オルリスタット(ゼニカル) | 脂肪の吸収抑制 | なし | 油分の多い便 | 1日3回(食直前) |
比較ポイント
- アカルボースは主に炭水化物の消化を遅らせるため、食後高血糖の抑制に優れる
- SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬と異なり、体重減少効果は限定的
- メトホルミンと併用することで、より安定した血糖コントロールが可能
まとめ
- 食後血糖値の上昇を抑える効果がある
- 低血糖のリスクが低く、安全性が高い
- 炭水化物の消化を遅らせるため、ダイエット効果も期待できる
- 腹部膨満感やおならが増える副作用に注意
- 食事のタイミングに合わせた服用が重要
アカルボースは、糖尿病治療だけでなく、肥満治療にも活用されており、血糖値コントロールを目的とする方に適した薬です。