📋 この記事のポイント
ピルの血栓症発生率を絶対・相対リスクに分け、製剤ごとの推定値と年齢・喫煙・肥満・片頭痛・既往歴などの個人因子を解説します。
ピルで血栓症になる確率は?発生率とリスク因子を解説
「血栓症は何%で起こるのか」を考えるときは、年間の絶対リスク、比較対象に対する相対リスク、使う製剤、本人のリスク因子を分けて確認する必要があります。公的資料の数値と、処方前・継続中に申告したい項目を整理します。
EMAは、静脈血栓塞栓症(VTE)の年間発生を、配合ホルモン避妊法を使わず妊娠していない女性で1万人あたり約2人、配合剤使用者で約5〜12人と推定しています。ただし製剤と個人因子で変わる集団値であり、あなた個人の確率ではありません。
ピルで血栓症になる確率を数字で確認する

ピルに関連して主に問題になるのは、脚の深い静脈に血栓ができる深部静脈血栓症と、その血栓が肺動脈へ流れる肺血栓塞栓症を合わせた静脈血栓塞栓症(VTE)です。心筋梗塞や脳卒中などの動脈血栓症とは、発症の仕組みと評価する因子が完全には同じではありません。
欧州医薬品庁(EMA)は、配合ホルモン避妊法を使用せず妊娠していない女性のVTEを、年間1万人あたり約2人と推定しています。エストロゲンとプロゲスチンを含む配合ホルモン避妊法の使用者では、プロゲスチンの種類などによって年間1万人あたり約5〜12人としています。[1]
| 比較する集団 | EMAが示すVTEの年間推定 | 読み方の注意 |
|---|---|---|
| 配合ホルモン避妊法を使わず、妊娠していない女性 | 1万人あたり約2人 | 年齢や既往歴などを平均した基準値 |
| レボノルゲストレル、ノルエチステロン、ノルゲスチメートを含む配合剤 | 1万人あたり約5〜7人 | 製剤・用量・使用状況で個別に確認 |
| エトノゲストレル、ノルエルゲストロミンを含む配合剤 | 1万人あたり約6〜12人 | 推定範囲に不確実性がある |
| ドロスピレノン、ゲストデン、デソゲストレルを含む配合剤 | 1万人あたり約9〜12人 | 日本の個別製品の確率と同一ではない |
発症しない人が大多数である一方、発症すると重篤になることがあります。「まれだから気にしなくてよい」「使うと高い確率で発症する」のどちらでもありません。数値は利益とリスクを相談する材料として使い、症状が出たときの行動は別に準備します。
絶対リスクと相対リスクを混同しない
絶対リスクは「一定期間に何人が発症するか」、相対リスクは「比較する集団の何倍か」を示します。検索結果やSNSで「数倍になる」という表現だけを見ると大きく感じますが、もとの人数と期間が分からなければ、実際の大きさを判断できません。
| 指標 | 何を示すか | 確認する質問 |
|---|---|---|
| 絶対リスク | 年間1万人あたり何人など、実際の発症人数 | 対象期間は何年か、母数は何人か |
| 相対リスク | 非使用者や別の製剤と比べて何倍か | 何と比較した倍率か |
| リスク差 | 比較する2群の絶対人数の差 | 1万人あたり何人増える計算か |
| 個人リスク | 年齢・既往・生活・一時的状況を含む判断 | 集団値をそのまま当てはめていないか |
例えば、CDCは肥満のある配合経口避妊薬使用者では、肥満があり非使用の女性と比べてVTEの相対リスクが5〜8倍だったとするレビューを示しています。[2]しかし、これは「肥満のある人が5〜8%で発症する」という意味ではありません。比較対象、年齢、製剤、研究方法が違えば数値も変わります。
製剤によって発生率の推定が異なる理由
配合剤の血栓症リスクには、エストロゲンの種類・用量、組み合わせるプロゲスチン、使用開始からの期間、服用者の背景などが関係します。同じ「低用量ピル」という呼び方でも、避妊目的のOC、月経困難症などに用いるLEP、黄体ホルモン単剤は同じ製剤ではありません。
製品名ではなく成分と適応を確認します
EMAの発生率は、主としてプロゲスチンの種類ごとに示されています。ただし、海外の分類を日本の製品へ機械的に当てはめるのは適切ではありません。日本では電子添文で有効成分、適応、禁忌、用法、副作用、安全対策を確認します。月経困難症治療薬を避妊薬として評価したり、逆に海外の避妊データだけで治療薬の利益を判断したりしません。
また、エストロゲンを含まない黄体ホルモン単剤を、配合剤と同じ発生率だと一般化することもできません。血栓症が心配だからという理由だけで、別製品へ自己変更したり、残っている薬を交互に使ったりしないでください。
開始直後と再開時は特に確認します
EMAは、VTEリスクが使用開始後の最初の1年に高く、4週間以上中断した後の再開時にも高くなる可能性があると説明しています。[1]自己判断で中断と再開を繰り返すと、治療効果や出血だけでなく、リスク評価も複雑になります。手術、長期安静、強い副作用、不規則な服用がある場合は処方医へ相談します。
血栓症リスクが高くなる主な因子

配合ホルモン避妊法の適否は、薬の種類だけでなく本人の背景を合わせて判断します。CDCの医学的適格性基準やPMDAの電子添文・安全性情報では、血栓症の既往、血栓性素因、年齢、喫煙、肥満、片頭痛、手術・安静などを重要な確認項目としています。[2][4]
家族歴がある場合
「家族が血栓症になったことがある」だけで一律に服用できないとは限りません。発症した人との続柄、発症年齢、妊娠・手術・入院との関連、再発の有無、血栓性素因の診断を伝えます。既知の血栓性素因がある場合、CDC MECでは配合ホルモン避妊法をカテゴリー4(容認できない健康リスク)としています。[2]
一方、CDCは一般集団へ一律に血栓性素因スクリーニングを行うことは費用対効果の観点から勧めていません。[3]検査の要否は、家族歴と本人の状況を踏まえて医師が判断します。市販の遺伝子検査だけで安全性を判断しないでください。
喫煙・年齢・肥満など複数の因子が重なる場合
血栓症リスクは単純な足し算ではありません。CDC MECは、肥満、年齢、糖尿病、喫煙、家族歴、脂質異常症など複数の因子が重なると、配合ホルモン避妊法の血栓症リスクが容認できない水準になる場合があるとしています。[2]
| 因子 | 処方時に伝える内容 | 判断上の注意 |
|---|---|---|
| 喫煙 | 現在・過去、1日の本数、開始年齢、禁煙時期 | 35歳以上では本数を含め重要。製品の電子添文を確認 |
| 年齢 | 現在年齢と、今後の継続期間 | 加齢そのものに加え他因子との重なりを評価 |
| 肥満 | 身長・体重の変化、活動性、合併症 | BMIだけで自己判断せず、喫煙や家族歴と合わせる |
| 片頭痛 | 前兆の有無、症状の変化、初発時期 | 前兆を伴う片頭痛は脳卒中リスクの観点から重要 |
| 高血圧・糖尿病・脂質異常 | 診断、治療、最近の測定値、合併症 | 動脈血栓症を含む心血管リスクも評価 |
| 家族歴 | 続柄、発症年齢、血栓の種類、誘因 | 若年・反復・原因不明の発症を詳しく伝える |
日本の一部の配合剤では、35歳以上で1日15本以上喫煙する人が禁忌に含まれます。[7]ただし、この数字だけを境界にして「14本なら安全」「34歳なら問題ない」とは判断できません。本数を減らして申告したり、受診直前だけ禁煙したりせず、実際の状況を伝えます。
手術・長期安静・産後など一時的に変わるリスク

リスク評価は処方時に一度行えば終わりではありません。手術、入院、ギプス固定、長期間歩けない状態、著しい脱水、妊娠・産後などでは、血栓症リスクが一時的に変わります。PMDAは、経口避妊薬等の使用中に不動状態、著しい血圧上昇、脱水などが生じた場合、血栓症リスクが高まると注意喚起しています。[4]
手術や入院は早めに共有します
日本の配合剤の電子添文では、手術前4週以内、術後2週以内、産後4週以内、長期間安静状態などを禁忌とする製品があります。[7]すべての製品へ同じ日数を機械的に当てはめず、自分の製品の電子添文と手術内容を確認します。手術担当医と処方医の双方に服用中であることを伝え、いつ中止し、いつ再開するかを具体的に決めます。
発熱、嘔吐、下痢、食事・水分摂取不良が続くときも、脱水や薬の吸収に影響します。自己判断で2錠飲む、休薬する、余っている別のホルモン剤へ切り替えることは避け、処方医・薬剤師へ確認してください。
服用前と継続中に確認すること
配合ホルモン避妊法を始める前には、問診だけでなく血圧測定が重要です。CDCの診療指針は、CHC開始前に血圧を測定すべきとしています。[3]受診時に正常でも、継続中に新しい症状・診断・生活変化があれば再評価します。
血液検査がすべて正常なら血栓症が起こらない、ということではありません。血栓性素因の検査も、全員へ一律に行う検査ではありません。問診、診察、血圧、必要な検査、製剤固有の禁忌を組み合わせて判断します。
血栓症を疑う症状と受診目安
この記事は発生率とリスク因子を中心に扱います。症状の詳しい見分け方は、親記事のピルによる血栓症の初期症状と受診目安を確認してください。発生率が低いことを理由に、次の症状を様子見しないでください。
- 片脚だけの急な腫れ、痛み、赤み、熱感、しびれ
- 突然の息切れ、胸痛、呼吸困難、血痰、失神
- 経験したことのない激しい頭痛、意識障害、けいれん
- 片側の手足の脱力・麻痺、舌のもつれ、話しにくさ
- 急な視力低下、視野の欠け、目のかすみ
PMDAはこれらの症状が現れた場合、服用を中止し、直ちに医師等へ相談するよう求めています。[4]突然の息切れや胸痛、失神、意識障害などがある場合は119へ連絡します。受診時には製品名、最後に服用した日時、症状が始まった時刻、手術・安静・旅行など最近の出来事を伝えてください。
まとめ
- EMAの年間推定では、VTEは非使用・非妊娠で1万人あたり約2人、配合剤使用者で約5〜12人です。
- 数値は欧州の集団推定であり、日本の個別製品や個人の確率を直接示すものではありません。
- 相対リスクだけでなく、絶対人数、比較対象、期間を合わせて読みます。
- 製剤の成分、使用開始・再開時期、本人の既往や家族歴によって評価が変わります。
- 年齢、喫煙、肥満、片頭痛、高血圧、糖尿病など複数因子の重なりを確認します。
- 手術・長期安静・産後・脱水などの状況が生じたら、継続可否を再評価します。
- 片脚の急な腫れや痛み、突然の息切れ・胸痛などでは確率にかかわらず速やかに受診します。
「何%なら安全か」だけで服用を決めるのではなく、自分が使う製剤、得られる利益、個人のリスク因子、警告症状が出たときの行動をセットで確認することが大切です。
ピルの血栓症確率とリスク因子についてよくある質問
ピルを飲むと血栓症になる確率は何%ですか?
血栓症の絶対リスクと相対リスクはどう違いますか?
血栓症になりやすい人の特徴はありますか?
太っているとピルを飲めませんか?
家族に血栓症の人がいる場合は検査が必要ですか?
血栓症が心配なら自分でピルを中止してもよいですか?
参考文献・一次資料
- European Medicines Agency「Benefits of combined hormonal contraceptives continue to outweigh risks」公的安全性評価
- CDC「U.S. Medical Eligibility Criteria 2024: Combined Hormonal Contraceptives」公的適格性基準
- CDC「U.S. Selected Practice Recommendations: Combined Hormonal Contraceptives」公的診療指針
- PMDA「使用上の注意改訂情報(平成26年2月18日指示分)」安全対策
- CDC「Understanding Your Risk for Healthcare-Associated VTE」公的リスク資料
- 厚生労働省・PMDA「重篤副作用疾患別対応マニュアル 血栓症」令和3年4月改定公的マニュアル
- PMDA「ヤーズ配合錠 医療用医薬品情報」電子添文等