📋 この記事のポイント
ピル服用中に注意したい血栓症の初期症状、緊急受診の目安、リスク因子、検査、長時間座位など日常生活の注意を一次資料に基づいて解説します。
ピルによる血栓症の初期症状と受診目安|リスク因子も解説
ピル服用中の血栓症はまれでも、見逃すと重症化する可能性があります。注意すべき症状、すぐに受診する場面、リスクが高まる状況を、PMDAなどの公的資料に沿って整理します。
ピルによる血栓症の初期症状として、片脚の急な痛みや腫れ、突然の息切れ・胸痛、激しい頭痛、手足の脱力、言語障害、急な視力障害があります。突然または強く現れた場合は服用を中止し、救急医療機関を受診してください。
対象となるピルと血栓症の意味

「ピル」は、避妊目的の経口避妊薬(OC)、月経困難症などに用いる低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)、黄体ホルモンだけを含む製剤などを含む広い呼び方です。含まれるホルモン、効能・効果、禁忌は製品ごとに異なります。
本記事で中心に扱うのは、エストロゲンとプロゲスチンを含む配合剤です。こうした製剤では、重大な副作用として静脈血栓塞栓症や動脈血栓症に注意するよう電子添文に記載されています。一方、エストロゲンを含まない黄体ホルモン単剤まで、同じ頻度・同じ禁忌だと一般化することはできません。自分の薬の成分と電子添文を確認することが出発点です。
血栓症はどこに起こるかで症状が変わります
血栓症は、血管内でできた血のかたまりが血流を妨げる状態です。脚の深い静脈にできる深部静脈血栓症、血栓が肺の血管をふさぐ肺血栓塞栓症、脳や心臓、網膜などの血管に起こる血栓症があり、現れる症状は部位によって異なります。PMDAの注意喚起は、四肢、肺、心、脳、網膜などの血栓症を想定し、初期症状があれば直ちに投与を中止して適切な処置を行うよう求めています。[1]
ピルによる血栓症の初期症状と緊急受診の目安
次の症状は血栓症だけに特有ではありませんが、ピル服用中に突然または強く現れた場合は見逃さないことが重要です。症状が軽くなったとしても、片麻痺や言語障害、胸痛、呼吸困難、失神などがあった場合は様子見をしないでください。
| 症状のまとまり | 考える部位の例 | 行動の目安 |
|---|---|---|
| 片脚の急な痛み・腫れ | 深部静脈血栓症。片側だけの腫れ、赤み、熱感、ふくらはぎの痛みなど | 当日中に医療機関へ相談。息切れ・胸痛が加われば救急受診 |
| 突然の息切れ・胸痛 | 肺血栓塞栓症。呼吸困難、動悸、血圧低下、失神を伴うことがある | 服用を中止し、症状が強ければ119 |
| 激しい頭痛・神経症状 | 脳血管の血栓症。片側の手足の脱力・しびれ、構語障害、けいれんなど | 一過性でも救急受診を検討 |
| 急な見え方の異常 | 網膜などの血管障害。視力低下、視野の欠け、見えにくさ | 服用を中止し、速やかに受診 |
| 強い腹痛 | 腹部血管の血栓症などを含む多様な原因 | 持続・悪化、冷汗や嘔吐を伴う場合は救急相談 |

症状があるときに何をすればよいか
血栓症を疑う症状があるときは、オンライン上の情報だけで診断しようとせず、重症度に応じて救急要請または対面受診につなげます。突然の呼吸困難、強い胸痛、意識障害、片麻痺、言語障害などは、オンライン診療の予約を待つ状態ではありません。
軽い違和感で緊急性が判断できない場合は、地域の救急相談窓口や医療機関へ連絡してください。片脚の症状が続く、徐々に悪化する、血栓症のリスク因子が重なる場合は、同日中の相談が安全です。
血栓症のリスクが高まる主な要因
血栓症の起こりやすさは、薬の種類だけでなく、本人の既往歴、年齢、生活背景、一時的な状況によって変わります。複数の要因が重なる場合は特に注意が必要です。電子添文上の禁忌・注意事項は製品ごとに確認し、自己判断で「該当しない」と決めないでください。
| 確認する要因 | 具体例 | 診察で伝える理由 |
|---|---|---|
| 本人・家族の血栓症歴 | 深部静脈血栓症、肺塞栓症、脳梗塞、心筋梗塞、若年発症の家族歴 | 既往や遺伝性血栓性素因の可能性を確認するため |
| 喫煙と年齢 | 喫煙本数、電子たばこを含む使用状況、年齢 | 心血管系のリスク評価と製品ごとの禁忌確認に必要 |
| 片頭痛・循環器疾患 | 前兆を伴う片頭痛、高血圧、心疾患、糖尿病、脂質異常症 | 動脈血栓症を含むリスクを評価するため |
| 肥満・活動性 | BMI、長期臥床、ギプス固定、車いす、長時間の座位 | 静脈うっ滞などの追加リスクを確認するため |
| 手術・産後 | 予定手術、入院、産後の時期、流産・中絶後 | 一時的に血栓症リスクが高まる時期と休薬の必要性を判断するため |
| 悪性腫瘍・全身疾患 | がん、自己免疫疾患、腎・肝疾患、炎症性疾患 | 基礎疾患自体のリスクや薬の適否を評価するため |
たとえば、エストロゲンを含む一部の製剤では、血栓性静脈炎・肺塞栓症などの既往、血栓性素因、前兆を伴う片頭痛、特定の喫煙状況、手術前後や長期安静などが禁忌として記載されています。ただし、年齢や期間などの条件は製品ごとに異なるため、一般記事の一覧をそのまま自己判定に使わず、必ず自分の製剤の電子添文と処方医の判断を優先してください。[4]
飲み始め・再開時期だけ注意すればよいわけではありません
厚生労働省・PMDAの重篤副作用疾患別対応マニュアルでは、経口避妊薬に関連する静脈血栓塞栓症は服用開始後3か月以内に多い一方、長期間服用している場合でも発症に注意が必要とされています。[2]開始直後だけを「危険期間」と考え、数か月後から症状を無視してよいわけではありません。
中断後の再開、別製品への変更、出産後の開始、長期安静や手術を挟む場合は、リスク評価が変わることがあります。自分で休薬期間を調整したり、余っているシートから再開したりせず、処方医へ相談してください。
処方前後に確認すること
安全に服用するためには、血栓症の症状を知るだけでなく、処方前の問診と継続中の変化の確認が重要です。問診では「病名」だけでなく、家族が若い年齢で血栓症になったことがあるか、前兆を伴う片頭痛があるか、喫煙本数、手術予定や長時間移動、妊娠・産後の時期なども伝えます。
血液検査は、すべての人に同じ項目を一律に行えば安全が保証されるものではありません。症状のない人への検査や血栓性素因の検査は、病歴や家族歴などを踏まえて医師が必要性を判断します。Dダイマーは血栓症の診断過程で使われますが、値だけで自己診断・自己否定はできません。
オンライン診療は、薬の継続相談や問診の確認に役立つ場合がありますが、血栓症を疑う急な症状の診断や救急対応の代わりにはなりません。緊急症状があるときは対面の救急医療を優先してください。
医療機関で行う主な検査と治療
医療機関では、症状が始まった時刻、服用薬、血栓症の既往とリスク因子、バイタルサイン、脚の左右差、呼吸・神経症状などを確認します。疑う部位と緊急度に応じて、血液検査、下肢静脈超音波、造影CT、心電図、心エコー、頭部画像検査などが選択されます。
治療の中心は抗凝固療法ですが、重症の肺血栓塞栓症や脳・心臓の血管障害では、血栓を溶かす治療、カテーテル治療、外科的治療などが検討される場合があります。治療方法は血栓の部位、重症度、出血リスク、妊娠の有無、基礎疾患などで異なります。[6]
日常生活と長時間のフライト・デスクワークの注意

長時間同じ姿勢で座り続けると、脚の静脈の流れが滞りやすくなります。飛行機・新幹線・車での移動、在宅勤務やデスクワークでは、可能な範囲で定期的に立って歩く、座ったまま足首を曲げ伸ばしする、締め付けの強い衣服を避けるなどを意識します。
発熱、嘔吐・下痢、飲酒、暑熱環境などで脱水にならないよう、医師から水分制限を受けていない場合は適切に水分をとります。ただし、水分補給や運動をすれば薬に関連する血栓症を必ず防げるわけではありません。予防策を行っていることを理由に、警告症状を様子見しないでください。
長距離移動の前に相談したいケース
- 過去に血栓症になったことがある、または若年発症の家族歴がある
- 最近の手術、骨折、ギプス固定、入院、長期安静がある
- 妊娠中・産後である、または悪性腫瘍など別のリスク因子がある
- 片脚の痛みや腫れ、原因不明の息切れなど、すでに症状がある
こうした場合は、移動直前ではなく予定が決まった段階で処方医に相談します。弾性ストッキングや薬による予防が適切かどうかも個人差があるため、自己判断で開始しないでください。
製剤による違いを確認する
血栓症の説明を読むときは、製品の成分と効能・効果を確認します。配合剤でも成分量や用法、適応、禁忌が異なります。黄体ホルモン単剤はエストロゲン配合剤と同じ扱いではありません。
| 製剤の区分 | 成分の考え方 | 確認するポイント |
|---|---|---|
| 低用量OC・LEPなどの配合剤 | エストロゲン+プロゲスチン | 血栓症の警告症状、既往歴、喫煙、片頭痛、手術・安静、産後などの禁忌・注意 |
| 黄体ホルモン単剤 | エストロゲンを含まない | 配合剤と同じリスクだと決めつけず、その製品固有の禁忌・副作用・併用薬を確認 |
| 中用量・その他のホルモン製剤 | 成分量・目的が製品ごとに異なる | 避妊、月経移動、治療など目的と用法を確認し、別製品の説明を流用しない |
製品別の情報は、ヤーズの効果・副作用、ドロエチの効果・副作用・飲み方、ヤーズフレックスの効果・副作用、ルナベルの効果・副作用で確認できます。エストロゲンを含まない製剤については、スリンダ錠28の解説を参照してください。各記事は一般情報であり、処方可否は診察で判断されます。
ピル全体の副作用や併用禁忌を整理したい方は、親記事のピルの副作用・リスクと併用禁忌へ戻って確認できます。種類、受診の流れ、費用などの総合情報はピル総合ガイドをご覧ください。
今後追加する詳しい記事
まとめ
- 本記事の主対象は、エストロゲンを含む低用量OC・LEPなどの配合剤です。製品ごとの電子添文を確認します。
- 片脚の急な痛み・腫れ、突然の息切れ・胸痛、激しい頭痛、片麻痺・言語障害、急な視力障害は緊急症状です。
- 症状が強い場合は服用を中止し、119を含む救急受診を検討します。オンライン診療の予約を待ちません。
- 既往歴、家族歴、喫煙、片頭痛、手術・安静、産後、長時間移動などの変化を処方医へ伝えます。
- 水分補給や運動は血栓症を確実に防ぐものではなく、症状があるときの様子見の根拠にはなりません。
ピルと血栓症についてよくある質問
いつもの頭痛でも血栓症を疑うべきですか?
片脚のふくらはぎが痛いときはどうしますか?
飲み始めてから何か月が最も注意する時期ですか?
ピルを処方する前に血栓症の血液検査は必須ですか?
飛行機や長時間のデスクワークではピルを中止すべきですか?
血栓症が疑われた後に同じピルを再開できますか?
参考文献・一次資料
- PMDA「使用上の注意改訂情報(平成26年2月18日指示分)」安全対策
- 厚生労働省・PMDA「重篤副作用疾患別対応マニュアル 血栓症」令和3年4月改定公的マニュアル
- 日本産科婦人科学会「ガイドライン」診療ガイドライン
- PMDA「ヤーズ配合錠 医療用医薬品情報」電子添文
- PMDA「アリッサ配合錠 審査報告書」審査報告書
- Japanese Circulation Society「2025 Guideline on Pulmonary Hypertension and Pulmonary Embolism/Deep Vein Thrombosis」診療ガイドライン
- PMDA「重篤副作用疾患別対応マニュアル(患者・一般の方向け)」患者向け公的資料